Chapter 230
九条凛のお兄ちゃんが振られた
「凛ちゃん、お兄さん家にいるの?」
「もちろん家にいるよ。他にどこ行くの?」九条凛は失恋で心が折れていて、高橋美咲にこれ以上話す気力もなかった。「もう寝て。切るから。」とそっけなく言った。
プツッと通話が切れる音がして、高橋美咲はとても眠れる気がしなかった。
すぐに起き上がり、着替えて、鍵を持って家を出た。
高橋美咲はあっという間に九条家本邸に到着した。
豪奢な九条家本邸の門の前に立ち、高橋美咲は九条凛の番号に電話をかけた。しばらくして、ようやく誰かが出た。
「もしもし。」低くて落ち着いた、心地よい声が聞こえ、高橋美咲は一瞬固まった。
それは九条蓮の声だった。
聞き間違いかと思い、携帯を離して画面を確認したが、間違いなく九条凛の番号だった。
「九条蓮?」高橋美咲は戸惑いながら不安げに尋ねた。「なんで凛ちゃんの携帯持ってるの?」
「俺だよ。凛は今トイレに行ってる。」相手は低い声で答えた。
「九条蓮、今九条家本邸で九条社長のそばにいるの?私、今九条家の門の前にいるんだけど、あなた……」
高橋美咲が言い終わる前に、通話はぷつりと切れた。
呆然と立ち尽くしていると、すぐに足音が聞こえてきた。
九条蓮が長い石畳の小道を歩いて出てきた。端正な顔にはほんのり赤みが差している。
近づくと、ほのかにお酒の匂いもした。
本当に飲んでいたんだ!
九条蓮の視線が高橋美咲に向けられた。「どうしてここに?」
実際、考えるまでもなく九条凛が高橋美咲に話したのだと分かっていた。
さっき、九条凛が突然やってきて、やけに芝居がかった溜息をつきながら「兄さん、私と一緒に酔いつぶれるまで飲もう!」と無理やり付き合わされたばかりだった。
高橋美咲はしばらく黙ってから言った。「凛ちゃんが、九条社長が振られたって……」
九条蓮は眉をひそめた。
高橋美咲は続けた。「それで、あなたが呼ばれて、酔い潰れて帰れなくなったら心配だから迎えに来たの。」
九条蓮の冷たい黒い瞳の奥に、徐々に違う色が浮かんだ。
自分のことを心配して、わざわざ迎えに来てくれたのか?
その瞬間、九条蓮は密かに嬉しさがこみ上げてきて、高橋美咲が自分のために来てくれたことが嬉しくて、さっきまでのわだかまりもどうでもよくなってしまいそうだった。
その時、九条蓮が何か言う前に、九条凛が駆け寄ってきた。
さっきトイレに行って戻ったら九条蓮がいなくて、何かあったのかと焦ったが、探してみると門のところにいた。
しかも高橋美咲までいるなんて?
九条凛は慌てて駆け寄った。「美咲さん、どうしてここに?」
本当は「もうどうにもならないんだから、これ以上兄さんの傷口に塩を塗らないでほしい」と言いたかった。
ううっ……お兄ちゃんが可哀想すぎる!
高橋美咲は九条凛の心中など知らず、「迎えに来たの」と答えた。
九条凛はこっそり九条蓮の表情をうかがった。特に変化がなかったので、ようやくほっと息をついた。
そっと九条蓮に近づき、小声で言った。「兄さん、先に帰った方がいいよ。美咲さんの顔見てまた傷ついたら大変だし。私が美咲さんと話すから……」
「傷つく?」九条蓮は冷ややかに九条凛を見やり、眉をひそめた。
九条凛は真剣な顔で言った。「うん。だって美咲さんが相沢翔と付き合って兄さんを裏切ったから、兄さんが落ち込んで飲んでるんでしょ?」
「……」
九条蓮は呆れて言葉を失った。九条凛は一体何を妄想しているんだ。
高橋美咲が相沢翔と付き合ったなんて、いつの話だ?
九条蓮は深く息をついた。「違う。」ただ、今の状況だと、いずれそうなるかもしれないが。
「えっ?」九条凛は目を見開き、地獄から天国に駆け上がったような気分だった。
高橋美咲は相沢翔と付き合っていなかったの?
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