Chapter 218
高橋美咲と柳小路は知り合いだった(続き)
その頃、高橋美咲は頬杖をつき、ぼんやりとデスクに座っていた。
昨夜の気遣い作戦は見事に失敗した。
初挑戦で失敗したことが、思いのほかショックだった。
じゃあ、他にどうすればいいのだろう。
ふと、九条凛のことを思い出した。九条凛は暇さえあれば小説を読んでいるから、きっといいアイデアを持っているはず。そう思い、高橋美咲はスマホを取り出し、九条凛にメッセージを送った。
社長室にて。
九条蓮が仕事をしていると、デスクの上のスマホがけたたましく鳴り始めた。画面を見ると、九条凛からの電話だった。
彼は電話を取り、スワイプして応答した。「もしもし。」
「お兄ちゃん!なんでこんなに出るの遅いの?大変なことが起きてるって分かってる?もう、こっちは気が気じゃないんだから!」
九条蓮の眉がわずかにひそめられる。「何があった。」
「さっき、美咲さんからメッセージが来て、何て言ったと思う?男の人とどうやって距離を縮めればいいか、アイデアを教えてって!もしかして相沢翔に会って、昔の気持ちが蘇ったんじゃないの?」
九条凛は息を呑んだ。「まさか相沢翔と距離を縮めたいってこと?うそでしょ!」
「……」
九条蓮は何も言わず、眉間のシワがさらに深くなり、顔色も暗くなった。
「お兄ちゃん、何とかしてよ!このままじゃ美咲さん、本当にいなくなっちゃうよ?ここまで来るのにどれだけ苦労したと思ってるの!」
九条凛は焦りで今にも泣きそうだった。美咲さんが“白い月明かり”に会ったら、ろくなことにならないと分かっていた。そして案の定、問題が起きたのだ。
九条蓮は唇を引き結んだ。「分かった。」
そう言って電話を切った。
昨夜の高橋美咲の妙な様子と、今日九条凛に言ったことを合わせて考えれば、確かに手がかりはある。
相沢翔は以前、見返りを受けて身を引くと約束した。だが、欲しいものを手に入れた今、また別のことを考え始めたのだろう。
この男には責任感も信用もない。
それなのに高橋美咲は、まだ彼のことを気にしている。
相沢翔は直接何かしたわけではない。ただ裏で一度だけ高橋美咲と会い、何かを言って彼女の態度を変えさせたのかもしれない。
今になって、高橋美咲の雇用契約に期間を設けなかったことを後悔し始めていた。五十年契約にしておけばよかった、と。
ちょうどその時、真壁直人がノックして仕事の報告に入ってきた。
オフィスに足を踏み入れた瞬間、いつもと違う空気を感じ取った。九条蓮の沈んだ表情を見て、何か機嫌を損ねる出来事があったのだろうと真壁直人は察した。
真壁直人は気を引き締め、前に進み、手に持っていたものを九条蓮の前に差し出した。
「九条社長、こちらがプロジェクトの進捗報告書です。」
そう言い終えると、真壁は踵を返して部屋を出ていった。
自分のデスクに戻っても、真壁はまだ腑に落ちない様子で、何か引っかかっているようだった。
その様子を見た隣の水城圭介が、すぐに身を乗り出してきた。
「なんだその顔。女の子にでもフラれたのか?」
真壁は首を振り、「いや、違うよ。さっき九条社長のオフィスに行ったんだけど、あの険しい顔を見たら本当に怖かった。何があったのか全然分からない。」と答えた。
それを聞いた水城は顎に手を当てて考え込む。「最近会社で特に問題もないし、九条社長と高橋さんもうまくいってるみたいだし、特に何もないはずだけどな……」
二人でしばらく考え込んだが、結局原因は分からなかった。
最後に水城が真壁の肩をポンと叩き、「まあ、九条社長が機嫌悪い時は、しばらくはおとなしくしてた方がいいぞ。火の粉をかぶりたくないだろ。何かやり残したこととかないよな?」と言った。
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