Chapter 212
高橋美咲、デザインディレクターになる
高橋美咲は冷笑を漏らし、桜井奈緒の怒りを完全に無視した。
幸いにも、自分は九条社長直々に採用された身。桜井奈緒がクビにしようとしても、その権限はないはずだ。あの時も九条蓮がわざわざ自分のために口添えしてくれた。
桜井奈緒なんて、相手にする必要すらない。
高橋美咲は腕を組み直し、クールに言った。「残念だけど、あなたの思い通りにはならないわ。まず、私を採用したのはあなたじゃない。私を辞めさせたいなら、採用した人の同意が必要よ。それに、私はメゾン・ヴェルヌのデザインディレクターだけど、あなたは私の上司じゃない。」
つまり、桜井奈緒が自分をクビにするなんて絶対に無理、ということだ。
高橋美咲の言葉に、桜井奈緒は顔色が青ざめるほど激怒した。拳を握りしめ、どうすることもできずにいた。
何か言い返そうとしたその時、肩に手が置かれた。振り向くと、そこには九条悠真がいた。
彼は小さく首を振り、もうこれ以上言うなと目で合図した。
桜井奈緒の表情はさらに険しくなった。
九条悠真は自分が高橋美咲に手出しするのを止めるつもりなの?まだ高橋美咲のことを忘れられないの?
怒りが胸の奥からこみ上げ、桜井奈緒は今にも燃え尽きそうなほどだった。歯を食いしばり、低い声で言った。「悠真!どういうつもり?」
「後で説明する。今は彼女に構うな。」
九条悠真の言葉には何か含みがあると感じ、桜井奈緒は疑わしげな表情を浮かべた。
何か裏があるのか?
しばらくして、桜井奈緒は胸の怒りを抑え、平静を装ってデザイナーたちの入社手続きを続けた。
簡単な自己紹介が終わると、陽子が他のメンバーを連れて社内を案内した。
その間に、桜井奈緒は九条悠真をオフィスに引っ張り込んだ。
ドアが閉まるや否や、桜井奈緒は我慢できずに問い詰めた。「悠真、さっきどうして高橋美咲のために私を止めたの?」
「奈緒、よく聞いてくれ……」九条悠真は深く息をつき、ゆっくりと言った。「さっき止めたのは、高橋美咲を助けたかったからじゃない。君がこれ以上恥をかくのを見たくなかったんだ。高橋美咲は、きっと大物に取り入ってる。」
「えっ?」桜井奈緒は九条悠真を驚きの目で見つめた。
恐る恐る尋ねた。「それって……九条社長のこと?」
「違う。」九条悠真は首を振った。「今は気にしなくていい。俺がちゃんと調べる。」
九条悠真ですら知らないなら、桜井奈緒は好奇心を抑えるしかなかった。
その頃、社内見学を終えた高橋美咲たちデザイナーは自分の席に戻った。
陽子が独立したスペースを指して高橋美咲に言った。「高橋部長、こちらがあなたのデスクです。」
デザインディレクターとして、高橋美咲には他のデザイナーとは別の専用デスクが用意されていた。
「あ、そうだ。もうすぐアシスタントも来ますから。」と、陽子が思い出したように付け加えた。
高橋美咲は内心驚いた。
まさかアシスタントまで付くなんて?待遇が良すぎる……。
さっきまで桜井奈緒たちは高橋美咲がデザインディレクターだと知らず、九条インターナショナル本社から来た人間だと思い込んで最高レベルの環境を用意していた。今ごろ、虫でも飲み込んだような気分だろう。
柳小路は高橋美咲への優遇ぶりを見て、顔を曇らせ、嫉妬の色を隠しきれなかった。
くそっ、高橋美咲め、また自分より上に行きやがって!
初日は会社に慣れるだけで、特に難しい仕事はなかった。
時間はあっという間に過ぎていった。
退勤時間になると、高橋美咲は九条蓮が朝送ってくれた時、「仕事終わったら迎えに行く」と言っていたのを思い出した。そこで九条蓮にメッセージを送り、すぐに返事が来た。
もうすぐ着くとのことだった。
高橋美咲は嬉しそうに荷物をまとめ、帰る準備を始めた。
その後、彼女が会社を出ると、ひとつの影がこっそりと後をつけてきた。
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