Chapter 208
九条インターナショナルでの初出勤(続き)
もし知られていたら、あんなに無遠慮に馬鹿にされることもなかったかもしれない。
過去を思い出すと、今でも胸が痛む。
怒りがこみ上げるほど、高橋美咲は表面上ますます冷静になった。微笑みながら、「私が九条インターナショナルに応募しようが、あなたには関係ないでしょ。糞虫があくびすると口がでかいわね」と言い返した。
「なっ……!」柳小路は歯ぎしりした。
そのとき、九条インターナショナルに入る社員たちが急ぎ足になり、まるで一秒でも惜しいかのようだった。
柳小路は時間を確認し、すでに遅刻ギリギリだと気づいた。
もういい。これ以上高橋美咲と口論して自分の時間を無駄にする意味はない。高橋美咲が自分の前に現れなければ、それで十分だ。
柳小路は高橋美咲を鋭く睨みつけ、カードをかざして九条インターナショナルに入っていった。
柳小路がカードをかざすと、機械には彼女の身分情報や所属部署が表示された。
高橋美咲は、柳小路がメゾン・ヴェルヌ・ジュエリーのデザイナーであることを目にした。
やっぱり同じ部署だったのか!
柳小路は高橋グループでもかなり良いポジションにいたはずなのに、どうして急に九条インターナショナルに転職したのだろう?高待遇で引き抜かれたのか?
考えている暇もなく、高橋美咲は意識を現実に戻した。
すぐにバッグの中から自分のカードを見つけた。
周囲の人たちの真似をして、カードを取り出してかざすと、システムに自分の情報が表示された。
デザインディレクター:高橋美咲。
その肩書きを見た瞬間、高橋美咲の瞳が大きく見開き、思わず声を上げそうになった。自分の目を疑うほどだった。
自分のポジションはデザイナーではなく、デザインディレクター?
しばらくしてようやく高橋美咲はこの嬉しい驚きを受け入れた。普通のデザイナーをいくつも飛び越えて、いきなりトップクラスのデザイナーになったようなものだ。九条社長の信頼は本当に厚い。
もし今回九条社長の助けがなければ、こんなに簡単に名誉を回復することはできなかっただろう。この信頼には絶対に応えなければ!
高橋美咲の胸には熱い情熱が湧き上がり、やる気に満ちていた。
九条インターナショナルのオフィス内。
陽子は会議テーブルの前に立ち、桜井奈緒に恭しく言った。「桜井マネージャー、本日、全デザイナーが出社いたします。デザイナーは全部で5名、デザインディレクターが1名です。」
桜井奈緒はすでにデザイナーたちの資料に目を通していた。デザインディレクターは九条インターナショナルの上層部が決めた人選で、彼女も異論はなかった。
桜井奈緒の目に鋭い光が宿る。これからこのブランドを立ち上げていけば、いずれ自分の正体が露見する心配もなくなるはずだ。
ふと、桜井奈緒は高橋美咲のことを思い出した。
彼女は「高橋美咲のスタジオの様子はどう?」と尋ねた。
すでに九条インターナショナルの壁画は仕上げているから、もう次の仕事はないはず。自分が動いた後は、高橋美咲も注文が入らず、飢えに苦しむことになるだろう。
桜井奈緒はゆっくりと口元を上げ、上機嫌だった。
陽子が横から言った。「桜井マネージャー、うちのサクラ投稿者たちがすでに彼女のスタジオを荒らしています。今、現場は大混乱です。高橋美咲は本物の顧客と、うちが仕掛けた悪質な注文やキャンセルを見分けるのに手一杯でしょう。」
「よくやったわ。」桜井奈緒はゆっくりと口元を上げ、満足げだった。
その時、外から声がした。「デザイナーの皆さんが到着しました。」
その声を聞き、桜井奈緒は思考を切り替えて立ち上がった。
服を整え、自信に満ちた表情で「行きましょう。デザイナーたちに挨拶しに行くわ」と言った。
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