Chapter 206
早く抱きしめて
慌てて神谷海斗にしがみつき、「なんでこんなにグルグルするの?地震?海斗、早く抱きしめてて」と甘えた声で言った。
神谷海斗は仕方なく、彼女の腰に腕を回して支えた。
そして九条蓮と高橋美咲に「先に連れて帰ります」と告げた。
あっという間に二人は部屋を出て行き、室内は急に静かになった。
その時、高橋美咲も立ち上がり、テーブルの片付けをしようとしたが、立ち上がった瞬間、世界がぐるぐる回り、体がふらついた。
さっきまでは平気だったのに、今になってお酒が回ってきたのだ。
高橋美咲は九条凛よりは少しマシな程度だった。
アルコールで神経が麻痺し、体がだるくなって動けない。倒れるしかないと思ったその時、しっかりとした腕が腰に回され、九条蓮の硬い胸板が自分に押し当てられた。
高橋美咲はぼんやりとした目で九条蓮を見上げ、無防備で可愛らしい表情を浮かべていた。
その瞳、赤い唇と白い歯、ほんのり上気した頬、何気ない誘惑に九条蓮の喉仏が小さく動き、全身に火がついたような衝動を感じた。
抑えきれず、高橋美咲をぐっと引き寄せ、そのまま顔を近づけてキスをした。
高橋美咲はすでに少し酔っていたが、今や完全に酔いしれて、九条蓮の服をぎゅっと掴み、彼の腕の中で力が抜けていった。
二人の間がどんどん熱くなっていく中、高橋美咲はふと我に返った。
このままでは危ないと感じ、九条蓮の胸を手で押し返し、そのまま顔を真っ赤にして逃げるようにバスルームへ駆け込んだ。
背中をドアに預けて、ようやく高橋美咲は息をつき、動揺を落ち着かせた。
心臓が今にも飛び出しそうだった。
さっきの九条蓮は…
きっと酔っていたから、あんなことをしたのだろう。自分が途中で我に返らなければ、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
高橋美咲が慌てて逃げていく背中を見送りながら、九条蓮は眉をひそめ、気分がひどく沈んだ。
もしかして、もう自分のことを受け入れてくれなくなったのだろうか。
さっき高橋美咲は、ためらいもなく自分を突き放し、そのまま出て行ってしまった。
まるで自分の接近すら受け入れられないかのようだった。
九条蓮は唇をきゅっと結び、寝室へと戻っていった。
しばらくして高橋美咲がバスルームから出てきた時には、すでに気持ちを落ち着けていた。さっきのキスのことには一切触れず、九条蓮も何も言わなかった。
その夜、二人ともなかなか眠れなかった。
新しい環境に慣れないせいか、あるいはあのキスが頭から離れなかったせいか、とにかく二人とも寝返りばかり打っていた。
翌朝。
高橋美咲は早く起きた。今日は九条インターナショナルへの初出勤日で、桜井奈緒とも顔を合わせることになる。気を引き締めなければならない。
鏡を見ると、顔色が少し冴えず疲れが残っていた。ため息をつき、メイク道具を取り出してカバーし、ようやく元気そうな顔で出勤の準備を整えた。
昨夜市場に行った時、ついでに朝食も買っておいた。
簡単に温めるだけですぐ食べられる。初出勤の日に遅刻だけは絶対にしたくなかった。
九条蓮と一緒に朝食を済ませ、二人で家を出て、九条蓮が車で九条インターナショナルまで送ってくれた。
高橋美咲が車を降りると、九条蓮が「仕事終わったら迎えに来る」と声をかけてくれた。
振り返った時には、車はすでに走り去り、すぐにテールランプも見えなくなった。
高橋美咲は小さくため息をついた。
はあ…九条蓮との関係は、今やなんだか妙な空気になってしまった。
何かタブーのようなものが二人の間にあるのに、どちらもそれを壊そうとしない。たとえば、九条蓮も昨夜のキスについて何も説明しなかった。
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