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裏切った婚約者の叔父と、間違って結婚しました

Ch. 2 - 裏切り(続き)

Chapter 2

裏切り(続き)

「一時的な夫。しかも、びっくりするほど偽物」凛は身を乗り出し、危険な満足感で目を輝かせた。「悠真があんたを婚約パーティーに呼びたいんでしょ。いいわ。あんたは九条蓮夫人として現れるの。そうすれば、あいつは家族として紹介しなきゃならない」

美咲は結婚届を押し返した。「私はこの人を知らない」

「知る必要はないの。一晩、横に立っていればいい」凛は声を落とした。「悠真は、お母さんの病気を使ってあんたを小さく感じさせた。パーティーの招待状を、あんたの人生全体への判決に変えさせるな」

凛の顔にある怒りは本物だった。計画をまともにはしなかったが、美咲に、ひとりじゃないと思わせるには十分だった。

「母が私を必要としてるの」美咲は言った。「これ以上のスキャンダルは必要ない」

「なら、これはスキャンダルじゃない。入り口よ」凛はスマホで写真を開いた。チャコールグレーのスーツを着た黒髪の男が、九条家の催しから出ていくところを遠くから撮ったものだった。「蓮は、この一族のこの分家では幽霊みたいなもの。悠真は、会ったことすらない。運転手はドアの開け方も、スーツの着方も、口を閉じる方法も知ってる。それで十分」

「それで、証明書は?」

「小道具よ。書類も、印も、全部ある」凛は先頭の紙を爪先で軽く触れた。「これがあれば、悠真の目を見返せるくらいの度胸は持てる」

美咲は、自分の名前の横にある偽名を見た。計画は無謀だった。だが、もう相手が自分を切り捨てた男のために、結婚の書類一式を抱えて東京へ飛んできた時点で、無茶なのは同じだった。

「私は、あいつを嫉妬させるためにやるわけじゃない」彼女は言った。

「当然」凛が答えた。「あいつが、この先に起きることを決める立場じゃないって、自分に思い出させるためにやるの」

美咲はその名を知っていた。東京では誰でも知っている。九条蓮は、九条ホールディングスの拡大を支える、私的で近づけない幹部で、悠真の分家を神経質にさせるだけの影響力を持つ男だった。凛によれば、兄は海外にいて、パーティーの誰も本人に会ったことがないという。

「無茶苦茶だわ」美咲は言った。

「綿密なの」凛は結婚届を指で叩いた。「私の運転手に蓮をやらせる。口は堅いし、金も必要としてるし、書類は写真に撮っても耐えられるくらいには本物よ」

美咲は帰るべきだった。家に帰って母親に電話して、その夜を裏切りだけのものにしておくべきだった。

それなのに、彼女はホテルの床に落ちた悠真の小切手を見た。奈緒の手を重ねた彼の手を見た。自分の屈辱にまで観客を必要とするかのように送られてきた、あの招待状を見た。

「パーティーはいつ?」

凛の笑みが鋭くなった。「15日」

「じゃあ、私が行く」

2人は凛の指示どおりに署名した。復讐の計画をろくに詰めないまま祝えるほど、酒も飲みすぎた。夜明け前に、美咲は結婚届の1枚を財布にしまい、凛に九条家本邸へ向かわせた。

街の向こうでは、九条蓮の飛行機がちょうど着陸したところだった。

専属運転手の真壁直人が、プライベートターミナルで彼を出迎えた。顔は慎重に無表情になっていた。

「記者は片づけました」真壁が言った。「あと1つ問題があります」

蓮はスマホを受け取った。

画面には、23時47分に届け出られた婚姻記録が表示されていた。

九条蓮 — 配偶者: 高橋美咲。

真壁は咳払いした。「どうやら、お姉様が、あなたが空にいるあいだに結婚されたようです」