Chapter 199
新たな証拠
「でも、桜井奈緒の転び方、なんだかわざとらしく見えない?」
ネット上はまるで鍋が沸騰したような大騒ぎになっていたのに対し、法廷内の空気はずっしりと重かった。
高橋美咲の弁護士が最終弁論を述べた。
「被告人は原告に一切接触しておらず、原告の「突き飛ばされた」という主張は成立しません。裁判官と陪審員の皆様には、どうか厳正なご判断をお願いし、無実の者を決して罪に問わないでいただきたい!」
裁判官は桜井奈緒の方を見て、「原告、被告側の証拠に対して反論はありますか?」と尋ねた。
桜井奈緒は歯を食いしばり、極限まで醜い表情を浮かべていた。
これほどまでに周到に準備した計画でも、高橋美咲を陥れることはできなかった。どうしても納得できない。ここまで来て、高橋美咲をこのまま逃がすなんてあり得ない。
桜井奈緒は顔を覆い、みじめに泣き始めた。
弁護士はすぐに機転を利かせて、「高橋美咲が直接手を出していなくても、私の依頼人は彼女のせいで子どもを失いました。人道的見地からも、高橋美咲は相応の補償をすべきです」と主張した。
あまりにも厚かましいその言い分に、高橋美咲は嘲笑を漏らした。
突き飛ばしていないと証明しても、なお人道的補償を払えというのか。
もしもさらに準備していなかったら、きっとこの理不尽さに吐き気がしただろう。
高橋美咲は弁護士に目配せした。
弁護士はうなずき、「裁判官、新たな証拠を提出します」と告げた。
桜井奈緒は動揺し、驚愕の色を浮かべて泣くのも忘れてしまった。
高橋美咲はまだ新しい証拠を持っていたのか。
一体どれだけ用意していたのか。
録音データが裁判官に提出され、今度は音声が法廷に流された。それは桜井直樹と桜井奈緒の会話だった。
桜井奈緒は最初から妊娠していなかった!
そして、桜井奈緒が診断書の偽造を依頼したことなど、会話の中で一言一句明らかになった。
桜井奈緒の顔は真っ青になり、全身が小刻みに震えた。
どうして…高橋美咲はこんなものまで手に入れたのか。
いつ盗聴されたのか全く分からなかった。
桜井直樹が診断書を送ってこなかったのも納得だ。全てが明るみに出ると分かって、早々に逃げたのかもしれない。
録音を聞いた法廷内の人々は、あまりの展開に衝撃を受けた。
妊娠自体が嘘なら、この訴訟は根拠を失う。しかも桜井奈緒が故意に人を陥れたことまで明らかになり、事態は一気に面白くなった。
配信の視聴者たちも、その会話を耳にした。
コメント欄が一瞬静まり返った後、怒涛の勢いで荒れ始めた。
「ふざけんな!桜井奈緒、妊娠してなかったの?」
「じゃあ今まで毎日配信で可哀想なフリしてたの、全部無駄泣きだったってこと?」
「ほんとそれ!ずっと同情してたのに、まさか嘘つきだったなんて!」
「さっきの監視映像もやっぱり変だったよね。明らかに自分で転んでたし、全部自作自演だったってことか!」
コメント欄は桜井奈緒への非難で埋め尽くされ、同情心を利用され騙されたことに皆が怒りを爆発させていた。
この瞬間、桜井奈緒は完全に動揺していた。
高橋美咲がこれほど決定的な証拠を持っているとは思ってもみなかった。今や美咲に暴かれ、奈緒は絶体絶命の窮地に追い込まれてしまった。
だが何よりも……自分の偽装妊娠が暴かれてしまったのだ……。
奈緒は九条悠真の方を振り返った。彼の顔は暗く険しく、恐ろしいほどだった。明らかに激怒している。
九条悠真は高橋美咲に対して複雑な思いを抱きつつも、表向きは桜井奈緒を助けていたが、だからといって騙されることを許せるわけではなかった。
しかも公の場で暴露されたことで、彼の面目は丸つぶれだ!
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