Chapter 194
土壇場で心変わり(続き)
不安が解消され、高橋美咲はそれ以上聞かずに「それは助かる。じゃあ行こう」と素直に言った。
二人は退院手続きを済ませた。
九条蓮が車を走らせて高級マンションに入ると、高橋美咲は思わず感嘆の声を上げた。
真壁直人の部屋は、なんと代官山パークレジデンスだった。ここは九条ホールディングスの物件で、東京のビジネス街にあり、土地の値段も桁違い。お金があってもなかなか買えない場所だ。まさか真壁直人がこんな資産家だったとは!
高橋美咲は舌を巻き、「真壁直人ってそんなにお金持ちだったの?家族も養ってるって聞いたけど、ここって本当に手に入れるの難しいんだよね……」と呟いた。
高橋美咲は真壁直人を見下していたわけではない。ただ、少し驚いただけだった。
もちろん九条蓮は本当のことを言えないので、何気なく「九条ホールディングスの社員は自社物件を割引で買えるんだ」と答えた。
高橋美咲の目が一瞬揺れた。自分も今や九条ホールディングスの社員扱いなのだから、もし自社物件を買うなら割引が受けられるのだろうか?
今はまだ手が届かないけれど、しばらく頑張ればきっとその目標に届くはず。そうしたら九条蓮と一緒に……
待って!高橋美咲はその瞬間、はっとして自分が何を考えていたのかに気づいた。
なんてこと、無意識に九条蓮と将来ふたりの家を築くことを想像してしまっていた。
高橋美咲はそっと額を押さえ、心の中でため息をついた。
誰にも未来は分からないし、彼を自分の人生設計に組み込む必要なんてない。
新しい住まいは代官山パークレジデンスの15階で、眺めが抜群だった。シンプルな内装の2LDKで、広いテラスまで付いている。以前高橋美咲が借りていたアパートとは比べものにならないレベルだ。
高橋美咲はこの部屋にとても満足し、もっと頑張ってお金を稼ごうという決意がさらに強くなった。
部屋の中にはすでにいくつかの荷物が置かれていた。それは前の住まいから持ってきたものだった。
九条蓮が「先に荷物を運んでおいた」と言った。
高橋美咲は九条蓮がここまで気を回してくれるとは思わず、うなずいた。
部屋を見回すと、まず目に入ったのは2つの部屋だった。
九条蓮は別々の部屋で寝るつもりなのだろうか?
そう思った瞬間、高橋美咲の表情は固まり、胸が妙に締め付けられるような感覚になった。
でも、それが当然だとも思った。もともと一緒に寝ていたほうが不自然だったのだ。これが契約夫婦として普通の距離感なのだろう。
彼女は歩み寄ってドアを開けてみた。すると、そこにあったのは書斎だった。
高橋美咲はその場で固まった。
九条蓮が「書斎、気に入らなかった?リフォームしたい?」と声をかけた。
九条蓮の声で高橋美咲の意識が現実に戻った。少し驚きながら「こっちが書斎なら、隣が寝室なの?」と尋ねた。
「うん」
九条蓮の自然な表情を見て、高橋美咲は冗談ではないと分かった。彼は別々に寝るつもりはないのだろうか?
なぜか、高橋美咲の心の奥に小さな喜びが静かに湧き上がった。
ふたりとも、寝室がひとつしかない理由については、まるで暗黙の了解のように触れなかった。
…
この間、桜井奈緒は毎日ライブ配信で体調の回復状況を報告していた。また、桜井直樹に頼んで診断書を偽造してもらい、高橋美咲にもっと重い処分を受けさせようとした。
だが桜井直樹は「診断書を作るにはあと2日かかる」と言った。
裁判の前には間に合わせると言われ、桜井奈緒は彼なら何とかしてくれると信じていた。
病室では九条悠真が桜井奈緒のそばにいた。
桜井奈緒は彼を一瞥し、「悠真、あと2日で審理よ。絶対に高橋美咲に丸め込まれないで」と言った。
その言葉に、九条悠真の顔には不満が浮かんだ。
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