Chapter 191
賄賂の証拠
高橋美咲は小さくつぶやいた。その証拠があれば、桜井直樹が賄賂を受け取ったことは証明できるが、桜井奈緒の妊娠が偽りだという証拠にはならない。
もしさらに証拠があれば、もっと有利になるはずだ。
「それでも足りないんですか?」
高橋美咲はうなずき、「確かに、これだけだとせいぜい停職処分が関の山です。もし他にも何かあれば、もっと有利になるかもしれません」と言った。
野上千紗は「前に、桜井直樹とあの女のやり取りを盗み聞きしたくて、小型の盗聴器を買ったんです。あと2日ください。桜井直樹と桜井奈緒の取引の決定的な証拠を必ず手に入れます!」と言った。
高橋美咲と桜井奈緒が対立していることもあり、野上千紗は高橋美咲ならきっと自分の味方になってくれると本能的に信じていた。そして自ら協力を申し出たのだった。
高橋美咲は「分かりました。待ってます」と答えた。
すべてを終えて、高橋美咲は上機嫌で病室に戻った。
すると、病室には九条蓮がいた。彼は高橋美咲を探していたようで、どこか不安げな表情で「どこに行ってたんだ?」と尋ねた。
「私……証拠を探しに行ってたの」
九条蓮は少し表情を緩め、「どんな証拠だ?」と聞いた。
高橋美咲は彼を座らせ、偶然聞いた桜井奈緒の件や、さきほど野上千紗から聞いたことをすべて話した。
だが、九条蓮はそれを聞き終えると、思ったほど嬉しそうな顔はせず、むしろ重苦しい表情を浮かべていた。
九条蓮はきっぱりと言った。「彼女は気が変わるよ」
「えっ?」高橋美咲は呆然とした。少し戸惑いながら「そんなことないと思うけど?あの看護師さんも、あの医者に仕返ししたがってる感じだったし」と返した。
でも、あと2日も待たなければならないとなると、確かに色々な変数がある。
九条蓮は分析した。「あの男に言いくるめられて給料全部渡すくらいなんだから、仕返しをやめてまた彼の元に戻るよう説得される可能性もある」
その言葉を聞いて、高橋美咲は内心で焦り始めた。
「その看護師さん以外に、他の手は考えてある?」
「もし彼女が気が変わったら、次はどうするつもり?」
「もし向こうが認めないどころか、逆に君を責めてきたら、どう対応する?」
「わ、私……」高橋美咲は言葉に詰まった。
何も考えていなかった。ただ看護師がこっそり録音した証拠を持ってきてくれるのを待っていただけだったが、九条蓮に次々と質問されて、全然考えが甘かったことに気づかされた。
自信もなかった。もし野上千紗が本当に後悔したら、自分にはどうすることもできない。
さっきまであんなに嬉しかったのに、今はまるで冷水を浴びせられたような気分だった。
小さな顔にはすっかり落胆の色が浮かんでいた。
九条蓮は彼女を一瞥し、「でも、方法がないわけじゃない。会話を録音したいなら、それもできる」と言った。
その言葉を聞いた瞬間、高橋美咲の顔から曇りが一気に消えた。
すぐに九条蓮の腕を掴み、「何か方法があるの?」と身を乗り出した。
「こっちで盗聴器を仕掛ければいい。そうすれば、看護師が土壇場で気が変わっても、君の手元に証拠は残る」
まさかこんなにシンプルな解決策があるとは思わなかった。九条蓮の頭の回転の速さと、先を見通す力に感心せずにはいられなかった。
またしても、九条蓮への印象が大きく変わった。
「どうしてそんなに色々思いつくの?」と尋ねると、
「普通のリスク回避だよ」と九条蓮は答えた。
なるほど、自分のリスク感覚が甘すぎるから、そこまで考えが及ばなかったのだ。
高橋美咲はふと別のことを思い出し、眉をひそめて言った。「でも、私と桜井奈緒は同じ病院にいるけど、何か仕掛けるのは簡単じゃないよ」
「心配しなくていい。僕が手配する」
高橋美咲は九条蓮を見つめ、興奮と尊敬の入り混じった表情を浮かべた。なんてすごい人なんだろう。まるで万能じゃないか!
You might also like




