Chapter 188
間違った選択
以前のマンションも悪くはなかったが、九条インターナショナルからは少し遠かった。毎日の通勤に時間がかかりすぎる。もっと近ければ、高橋美咲も毎朝もう少し寝ていられる。
だが、彼女と別々に住みたくはなかったので、部屋の改装も必要だった。
高橋美咲がしばらく入院するなら、その間にちょうど準備ができる。
高橋美咲は「じゃあ、夜は帰って休んで。昼間だけ来てくれればいいから」と言った。
「うん」と九条蓮はうなずいた。
高橋美咲はため息をつき、沈んだ声で「九条悠真の訴訟まで、あと10日しかないのに、この間に弁護士を見つけられるか分からない」とこぼした。
相沢翔から、大阪では誰も自分の弁護を引き受けてくれないと言われたし、東京でも同じだろう。
本当に頭の痛い状況だった。
弁護士が見つからないなら、証拠を集めるしかない。そうでなければ、誰が好き好んで病院に居座るものか。
九条蓮が彼女を見て「弁護士が必要なのか?」と尋ねた。
高橋美咲は困った顔で「うん。今回の件も刑事事件扱いだし、九条悠真の側は全く手加減する気がない」と答えた。
証拠集めも大事だが、腕のいい弁護士がいれば勝てる可能性も高くなる。
九条蓮はしばらく黙ってから「俺が弁護士を探す」と言った。
高橋美咲は「あなたが探してくれるの?」と驚いた。
九条悠真のやり方は手強く、相沢翔ですらどうにもできなかった。九条蓮に本当に何か方法があるのか、それとも特別な伝手があるのか。
もしかしたら、九条蓮は現状をよく知らないのかもしれない。
そう考えた高橋美咲は、念のため「九条悠真はもう手を回してる。今は誰も私の案件を受けてくれないの」と伝えた。
「心配しなくていい」と九条蓮は断言した。
その自信に満ちた様子を見て、高橋美咲は本当に冗談ではないのかもしれないと感じた。
今回の件で、九条蓮に対する高橋美咲の印象はすっかり覆された。
相沢翔ができなかったことも、彼には簡単そうに見える。彼の言葉を信じてみようと思った。
高橋美咲はあまり迷わず「じゃあ、お願いするね。終わったらちゃんとお礼するから」と素直に頼んだ。
「お礼」という言葉に、九条蓮の目が一瞬揺れた。
高橋美咲に借りを作らせるのも、悪くない選択かもしれない。
…
その後数日、相沢翔がようやく全ての障害を乗り越えて助けに来たが、高橋美咲はすでに手配済みだと伝えた。
相沢翔は九条蓮に頼んだと知ると、もう自分が出る幕ではないと諦めた。
彼は「全部終わったら連絡して」と言い残した。
高橋美咲は、相沢翔が九条蓮を信頼しすぎている気もしたが、深く考えず、今は証拠集めに全神経を集中させていた。
高橋美咲はすぐに気を取り直した。ここ数日、時間があれば外に出ては、あの日見かけたあの小柄な看護師を探し回り、何か突破口がないかと様子をうかがっていた。
人の心を動かすものは、権力、金、そして感情しかないと高橋美咲は思っていた。あの看護師にも、きっとどこかに弱みがあるはずだ。
だが、何日も続けて見張ってみても、まったく成果はなかった。
それでも高橋美咲は諦めなかった。
天は努力する者を見捨てない。その日、ついに手がかりを掴んだのだ。
あの看護師が、白衣を着た医師と庭で激しく言い争っているのを見かけた。二人の関係は明らかに普通ではなかった。
高橋美咲はそっと近づいた。二人は怒りに満ちた顔で互いを睨みつけ、高橋美咲の存在にはまったく気づいていない。
やがて二人の口論がエスカレートし、その内容が高橋美咲の耳に入ってきた——
「家を買うために貯金してるって嘘を信じた私がバカだった!夜勤続きで必死に働いて、やっと七十五万円稼いだのに、あなたは三百万円もするダイヤの指輪をあの女に買ったんでしょ!」
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