Chapter 185
桜井奈緒は妊娠していなかった
ここ数日で見たことを思い出し、九条凛は思わず怒りをあらわにした。
「兄さんが監視カメラの映像を手に入れたら、あの腹黒い桜井奈緒の化けの皮をみんなに見せてやるんだから!」
高橋美咲はうなずいた。「絶対に濡れ衣は着せられたままにしない。」
九条凛が話している途中、急に表情が変わり、「やばい、お腹の調子が悪い……ちょっとごめん、トイレ行ってくる」と慌てて言った。
そう言うと、病室内のトイレに入っていった。
それから30分ほど経っても九条凛は出てこず、高橋美咲もトイレに行きたくなったため、仕方なくベッドを降りて外のトイレを借りに行くことにした。
廊下を歩きながらトイレを探していると、ふと見覚えのある人影を見かけた。
それは九条沙耶香だった。
果物の入ったバスケットを手に、誰かのお見舞いに行く様子だ。
最近入院しているのは桜井奈緒くらいしか思い当たらない。もしかして九条沙耶香は桜井奈緒のお見舞いに?桜井奈緒もこの病院に入院しているのか?
このフロアはVIP病室専用だ。桜井奈緒もここにいるなら、確かにあり得る。
高橋美咲は口元を引きつらせた。
自分と桜井奈緒はどれだけ縁があるんだろう。入院してまで顔を合わせるなんて。
ぼんやりしているうちに、九条沙耶香の姿はもう見えなくなっていた。
高橋美咲も気にせず、そのまま歩き続けた。ちょうど看護師の薬剤室の前を通りかかった時、中から声が聞こえてきた。
「あなた、ちょっと無神経すぎるわよ!これは妊婦さんが絶対使っちゃいけない薬だし、特に流産直後の人には絶対ダメ!今後はもっと気をつけて。もし患者さんが問題にしたら、あなたじゃ責任取りきれないからね、分かった?」
「はい、主任、分かりました。」
気になった高橋美咲は、そっと中の様子をうかがった。中には主任看護師の制服を着た女性と、若い看護師が立っていた。
主任看護師が若い看護師を叱っている。
その直後、薬剤室のドアが開き、主任看護師が足早に出ていった。
高橋美咲も立ち去ろうとしたが、思いがけず薬剤室の中から若い看護師の不満げな声が聞こえてきた。「妊娠って何よ、桜井奈緒なんて妊娠してなかったじゃん。あの薬使ったって別に何もないのに……」
高橋美咲の体が固まり、瞳孔が収縮し、衝撃が全身を駆け抜けた。
な、なに……!桜井奈緒は妊娠してなかった?
今、看護師が言った桜井奈緒って、あの桜井奈緒のこと?
これまでの出来事が高橋美咲の脳裏に浮かぶ。
桜井奈緒のやり方があまりにもえげつないと感じていたが、もし妊娠していなかったのなら全て納得がいく。だからこそ、あそこまで徹底的に自分を陥れようとしたのか。
まさか桜井奈緒がここまで悪どいとは思わなかった。そんな手まで使って自分を陥れるなんて!
高橋美咲の目が鋭くなった。もし桜井奈緒が妊娠していなかった証拠を掴めれば、たとえ動画がなくても自分の潔白を証明できる!
あの看護師は何か事情を知っているようだ。鍵は彼女にある。
でも、普通の人ならそんなことを暴露して自分が危険な目に遭うようなことはしないだろう。
何か証言してもらう方法があれば……。
高橋美咲が考え込んでいると、ちょうどその看護師がドアを開けて出てきた。
高橋美咲はすぐに壁際に身を寄せた。看護師は彼女に気づかず、そのまま立ち去った。
トイレを済ませて病室に戻ると、高橋美咲の頭の中は不安でいっぱいだった。
ちょうどその時、九条凛がトイレから出てきて、壁に手をついていた。高橋美咲の険しい表情に気づき、すぐに「美咲、どうしたの?今どこ行ってたの?」と尋ねた。
高橋美咲は九条凛を見上げて、「凛、知ってた?桜井奈緒もこの病院にいるみたい」と言った。
九条凛は一瞬固まった。「えっ、何て?桜井奈緒もここにいるの?」
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