Chapter 173
二つ目の選択肢はなかった(続き)
桜井奈緒は苦しげに微笑み、お腹に手を当てて悲しそうに言った。「本当です。大切にしていた宝物まで失ってしまいました……」
話しながら目が赤くなり、声を詰まらせて涙を拭い、もう話せないほど辛そうに見えた。
桜井奈緒は繊細で儚げな顔立ち。カメラに向かってこんなに哀れで無力な姿を見せれば、多くの人が心を動かされ、慰めのコメントが一気に流れた。
「殴った人は厳罰に処すべき!」
「ひどい。奈緒さんを殴るなんて。」
「怪我させたのは高橋美咲でしょ?親友だったのに裏切るなんて、最低。」
桜井奈緒は赤くなった目でカメラを見つめ、呆然としたように感情を込めて言った。「私も、まさかあんなことをされるなんて思いませんでした。」
「もう弁護士を雇って高橋美咲を訴えたって聞いたよ。罰を受けるべきだ!」
「もう逮捕されてるし、あとは法に任せます。」桜井奈緒は口元に微かな笑みを浮かべて言った。「結果が出たら、すぐ皆さんにお知らせしますね。」
「奈緒さん、その時は配信してくれる?悪女が裁かれるところを見たい!」
「賛成!私も見たい。」
「ぜひ見せて!」
桜井奈緒は一瞬ためらったが、やがてうなずいて言った。「わかりました。その時、機会があれば配信します。」
「ありがとう奈緒さん。優しすぎるよ。」
皆が桜井奈緒を称賛しつつ、高橋美咲への非難も続いた。
彼女が壁画スタジオを持っていることまで掘り起こされ、「嫌がらせ注文を大量に入れて、悪質なレビューをつけてやる。業界で生きていけなくしてやる」とまで言われていた。
ちょうどその時、病室のドアが開いた。
桜井奈緒は九条悠真がやって来たのを見ると、申し訳なさそうな顔でスマホに向かって「夫が来たので、今日の配信はここまで。また時間がある時にお話ししましょう」と言った。
そう言って、すぐに配信を切った。
桜井奈緒は顔を上げて九条悠真を見た。彼の表情はどこか暗く、明らかに機嫌が悪そうだった。
「悠真、どうしたの?高橋美咲の件で何かあったの?」と心配そうに尋ねた。
以前、高橋美咲には助けてくれる人がいたこともあり、今回も何か予想外のことが起きるのではと桜井奈緒は不安だった。
九条悠真は苛立ちを抑え、首を横に振った。「何も問題はない。ただ、拘置所に高橋美咲に会いに行ってきただけだ。」
男というのは不思議な生き物で、高橋美咲が抵抗すればするほど、彼女を手に入れたいという征服欲がかき立てられ、どんな手を使ってでも手に入れようと決意していた。
それはもはや一種の執着にまで発展していた。
そのために、桜井奈緒には何も知らせず、裏で全てを操っていた。
もちろん、桜井奈緒の前では決して本心を明かすことはなかった。
九条悠真が高橋美咲に会いに行ったと言った時、桜井奈緒の表情がわずかに変わった。
彼女はすぐに緊張した様子で「高橋美咲、何か言ってた?悠真、絶対に情けをかけちゃだめよ!高橋美咲は私たちの子どもを殺したのよ。あれは私たちの初めての子、あなたの実の子だったのよ!」と訴えた。
九条悠真は表情を変えずに「心配しなくていい。必ず君のために立ち上がって、高橋美咲に償わせる」と言った。
それを聞いて、桜井奈緒はようやく安堵の息をついた。
内心では小さく鼻で笑った。以前は高橋美咲が九条社長を後ろ盾にしているのではと警戒していたが、あの男が偽物だと分かった今は、もう何も怖くなかった。
今度こそ、絶対に高橋美咲を潰してやる!
拘置所で、高橋美咲は自分の部屋に戻った。
時間を確認すると、相沢翔に電話してからすでに数時間が経っていた。もうそろそろ向こうの用事も片付いたはずだと思い、再び電話をかけた。
「翔、もう全部片付いたでしょ?こっちに来られる?」
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