Chapter 170
目立ちたくなんてなかった
以前、相沢翔が結婚することを高橋美咲に伝えたとき、彼女は少し驚いたものの、それ以外の反応はなく、不思議なほど冷静だった。
もしかして、すでに彼に恋人がいることを知っていて、それで相沢翔から距離を置いたのだろうか。
それでも、高橋美咲が困ったときに最初に頼るのはやはり相沢翔だった。それは、彼女の心の中で相沢翔が今も特別な存在である証拠だった。
やっとの思いで高橋美咲をここに引き留めたのに、また新たな問題が現れた。
今夜これだけ話したことで、彼女はもう相沢翔に助けを求めるのをやめて、自分に頼ろうと考えてくれるかもしれない。
……
翌朝早く。
二人はいつも通り起きて朝食をとった。
九条蓮は普段通り仕事に出かけ、高橋美咲はここ数日家から出られそうになかった。
出かける前、九条蓮は高橋美咲を見て真剣に言った。「もし自分で解決できないことがあったら、必ず俺に連絡して。」
「うん、分かった。」高橋美咲は素直にうなずいた。
でも心の中では、今回の件はかなり深刻で、殺人未遂が絡んでいるから普通の人には簡単に解決できないだろうし、九条蓮にも無理かもしれないと思っていた。
それでも、こうして言ってくれるだけで十分心が温かくなった。
九条蓮を見送ったあと、高橋美咲はソファに戻り、九条悠真側の動きを待つことにした。
そのとき、九条凛が慌ててアパートにやってきた。
表向きは高橋美咲のために策を練るためだったが、実際は九条蓮の様子を見張り、いち早く情報を仕入れるためだった。
高橋美咲が“白い月光”に助けを求めたことはすでに知っていたが、九条凛は何も知らないふりをして、さりげなく尋ねた。「美咲、この件は簡単には解決しなさそうだけど、どうするつもり?」
高橋美咲はゆっくりと答えた。「なるようになるよ。心配しないで、もう助けてくれる人は見つけてあるから、何も起こらないよ。」
九条凛は目を細めて探るように言った。「助けてくれる人?まさか、前に会ったあの人に頼んだの?なんで私に言ってくれなかったの?私は親友なのに、全力で助けるのに!」
実際、九条凛が頼られるということは、ほぼ兄の九条蓮に頼るのと同じことだった。
九条凛の言葉に少し責めるような響きがあったので、高橋美咲は慌てて苦笑いを浮かべた。
そして九条凛の腕に自分の腕を絡めて、甘えるように言った。「だって、凛に迷惑かけたくなかったんだもん。それに、翔は身内みたいなものだから、遠慮せずに頼めるし、指示も出しやすいし。凛にまで頼る必要はないかなって。」
その言葉を聞いた九条凛は、心の中で思わず叫んだ。
あの男と美咲が“身内”だなんて?それが美咲の本心?じゃあ、自分と九条蓮は“部外者”なの?
自分は美咲の義理の姉なのに!
しかも兄は美咲の大切な夫なのに!
美咲は自分たちに頼るのが迷惑だと思ってるけど、全然そんなことないのに。
九条凛がまだしょんぼりしているのを見て、高橋美咲は慌てて慰めた。「だって、悠真に立ち向かうとなると、凛も立場が難しくなって、完全に絶縁しなきゃいけなくなるかもしれないでしょ?二人の間にはまだそういう関係があるし。もし翔がダメだったら、そのときは凛にお願いするから、ね?」
その言葉を聞いて、九条凛の気持ちは少しだけ晴れた。
次の日、高橋美咲と九条凛は、一日中アパートで警戒しながら過ごした。
ただ、九条悠真が何を仕掛けてくるのかを待つしかなかった。
九条悠真が何か大きな手を打ってくると思っていたが、意外にも一日中何事もなく、波風ひとつ立たない静けさが続いた。その様子に、逆に九条悠真は何もしてこないつもりなのかと疑念が湧いてくる。
高橋美咲の心には疑いが渦巻いていた。
常識的に考えて、桜井奈緒があんなことをした後で、何もせずに済ませるはずがない。
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