Chapter 169
高橋美咲もまた「高橋家」だった(続き)
だが九条蓮はすぐにその考えを打ち消した。
真壁直人によれば、高橋家の執事・和田琉生が桜井奈緒のジュエリーブランド立ち上げを手伝ったという。今も高橋家の次女が健在なら、桜井奈緒こそが高橋家の長女ということになる。
きっと偶然だろう。
九条蓮は我に返り、高橋美咲を見て「大丈夫。これからは俺がいる」と言った。
その言葉に高橋美咲は一瞬固まり、頬がみるみる赤くなった。
どうしてそんなに誤解を招くようなことを言うのだろう。
そんなふうに真剣な目で「これからは俺がいる」なんて言われて、動揺しない女なんているだろうか。
でも自分と九条蓮は契約結婚でしかなく、何かが生まれるはずもない。
しかも、契約が切れたらすぐに離婚すると、彼の口から直接聞いたのだ。
そう思った瞬間、高橋美咲の心には冷たい水がかけられたような気がして、すぐに自分を落ち着かせた。
きっと九条蓮の「これからは俺がいる」というのは、契約期間中は仮の夫として自分を守る、という意味なのだろう。そうに違いない。
高橋美咲はすぐに自分を納得させた。
心の中のざわつきを押し殺し、そっと咳払いをして話を続けた。「その後、家族と決裂して家を出て、一人で母の面倒を見ながら働いたの」
「それから九条悠真と出会った。彼が私を追いかけてくれていた頃は、本当に優しかった。面白くて魅力的なだけじゃなく、どんな時も気遣ってくれて……」
高橋美咲が九条悠真を褒めるのを聞いて、九条蓮の表情は曇った。],
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しかしすぐに、高橋美咲は話題を変え、少し苦々しげに言った。「付き合い始めてから、彼の本性が見えてきたの。あんなに上手く取り繕えるなんて思わなかった。私、ほんとに目が節穴だったんだと思う。」
九条蓮は、その言葉を聞いても少しも嬉しくなかった。
まさに九条凛が言っていた通り、比べてみて初めて違いが際立つ。
今の高橋美咲が九条悠真に嫌悪感を抱けば抱くほど、彼女の心の中にある“白い月光”の存在が際立ってしまう。それは決して良い兆候ではなかった。
「はあ……どうしてなんだろう……」高橋美咲は重いため息をつき、困ったように言った。「彼と桜井奈緒は本当にお似合いだし、私はもう身を引いたのに。これからはずっと二人でいればいいのに、どうして何度も私を巻き込むの?」
今回もそうだ。桜井奈緒は自分の子どもまで利用して、美咲を陥れようとした。
高橋美咲は、桜井奈緒は本当に手強くて、しかも容赦がなさすぎるとしか言いようがなかった。
この件は、確かに少し厄介だった。
「美咲さんが優秀すぎるからじゃない?彼女、きっと嫉妬してるんだよ。」九条蓮は高橋美咲が描き上げた壁画を思い出し、心から称賛した。
彼女は普通の女の子じゃない。
人から褒められることは時々あったが、高橋美咲は特に何も感じなかった。けれど、九条蓮のこの一言だけは、思いがけず心が温かくなった。
桜井奈緒が自分に嫉妬しているのは分かる。でも九条悠真は?
以前九条悠真に言われた、あの意味深で気持ち悪くて吐き気がするような言葉を思い出すと、高橋美咲の全身に鳥肌が立った。
やっぱり、そんなに優秀じゃなくてもよかったのかもしれない。
高橋美咲が、心の奥にしまっていたことを他人にここまで打ち明けたのは初めてだった。
九条蓮を信頼しているからこそ、これだけ話せたのだろう。もしかしたら、親友の九条凛よりも九条蓮の方が自分のことを知っているかもしれない。
全部話し終えてみると、九条蓮との距離が少し縮まったような気がした。
「もう遅いし、お風呂入って寝ようか。」高橋美咲は立ち上がった。
しばらくして、二人はシャワーを浴びてベッドに入った。何も心配事がなくなった高橋美咲は、すぐにすやすやと眠りについた。
だが九条蓮は、思いがけず眠れずにいた。高橋美咲と相沢翔のことが、どうしても頭から離れなかった。
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