Chapter 161
すべては誤解だった(続き)
九条悠真はついに九条インターナショナルのガーデンエリアで桜井奈緒に追いついた。彼は彼女の手を掴み、「奈緒、怒らないで」と言った。
桜井奈緒は彼に手を掴まれ、身動きが取れなかった。
「離して。」
「嫌だ!」
桜井奈緒はしばらくもがいたが、やがて動きを止めた。
最近は和田琉生が助けてくれているからこそ、桜井奈緒は九条悠真にこんなに強気な態度を取ることができた。それまでは、こんなこと絶対にできなかった。
彼女は、九条家のためにも九条悠真が必ず自分を追いかけてきて、なだめてくれると確信していた。
実際に九条悠真が追いかけてきたのを見て、これ以上騒ぎを大きくしたくないと思った。後々、収拾がつかなくなるのは避けたかったからだ。
九条悠真は彼女を抱きしめ、しばらく低い声でなだめ続けた。
桜井奈緒は潤んだ瞳で彼を見つめ、涙を浮かべながらかすれた声で言った。「悠真、もしかしてまだ高橋美咲のことが忘れられないの?もしそうなら、私は身を引くから、二人で一緒になればいいじゃない!」
その言葉を聞いて、九条悠真は慌てた。
彼はすぐに桜井奈緒を強く抱きしめ、「何を言ってるんだ。高橋美咲に未練なんてあるわけないだろ?さっきのことは全部誤解だよ」と説明した。
「誤解?」桜井奈緒は涙で滲んだ目を見開き、驚いたように九条悠真を見つめた。「どうして誤解なの?」
九条悠真はきっぱりと言った。「ただ、高橋美咲が今大変な状況だから、部屋を貸しただけなんだ。まさかみんながそんなふうに誤解するとは思わなかった。」
桜井奈緒は半分信じ、半分疑っていた。
九条悠真は続けた。「高橋美咲は君を陥れることだってできる女だ。さっきの録音も、わざと俺たちを壊すために仕組んだんだ。もし本気で信じてたら、それこそ彼女の思うつぼだよ!」
それを聞いて、桜井奈緒はぼんやりと返事をした。
本当のところはどうか分からないが、どちらにせよ、絶対に九条悠真を他の女に渡すつもりはなかった。
高橋美咲を東京に残しておくのは、いずれ大きな災いになる。
彼女をここにいられなくする方法を考えなければ。
桜井奈緒の瞳に陰りが差した。
…
この二日間、真壁直人に邪魔されることもなく、高橋美咲は九条インターナショナルの巨大な壁画を一気に仕上げた。
彼女が描いたのはレリーフ風の作品だった。遠景のシンプルさと前景の繊細さ、暖色と寒色の鋭いコントラストが、細部まで精緻に表現されていた。
高橋美咲が描いたのは田園風景。果てしない黄金色の稲穂の中に虹がかかり、遠くの小道には牛や羊が数頭歩き、近くでは鳥たちが舞い上がったり降りたりしていた。
全体の構図は広がりがあり、壮大で、奥行きも正確。立体感と写実的な筆致が見る人の目を引きつけた。
ちょうどその時は終業時間で、九条インターナショナルの社員たちが大勢立ち止まり、高橋美咲の壁画を鑑賞していた。
「わあ、すごく綺麗!」
「まさに目のごちそうだよ。毎日ここを通って、彼女が描いてるのを見てたけど、少しずつ完成していくのが、まるで建物が基礎から出来上がるのを見るみたいだった。うちの会社、きっとSNS映えスポットになるよね?」
その言葉を聞いて、何人もの目が輝いた。
「じゃあ、まだ人が少ないうちに急いで写真撮ろう!後で混んできたら、並ばないと撮れなくなるかも。」
そう言いながら、みんなが自撮りしたり、同僚に写真を撮ってもらったりして、SNSに投稿していた。
それを見て、高橋美咲はほっとした笑みを浮かべた。
また一つ、完璧に仕事を終えた。
彼女はカメラを起動し、壁画をバックに自分の写真を撮り、仕事完了の投稿もした。
実は、こうして投稿することで、次の依頼を受け付けていることを間接的に知らせていたのだ。
社長室。
真壁直人は九条インターナショナルの社員たちが投稿した写真をすべてまとめ、九条蓮に差し出した。「社長、高橋さんの壁画、もう完成しています。」
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