Chapter 16
高橋美咲との結婚生活は続く
その間、九条蓮は真壁直人にこっそりメッセージを送り、十五億円相当の高級車をすぐに移動させ、今後自分の前に現れないよう指示した。怪しまれないためだ。
さらに、真壁直人には目立たない普通の車と、安っぽいスーツを数着用意し、明日の朝までにアパートへ届けるよう命じた。
自分の正体を証明するものをすべて消し去って、ようやく九条蓮は安心した。
幸い、彼の顔を知る者は少なく、公の場で写真が出回ったこともないので、身元を隠すのは簡単だった。
高橋美咲が借りたアパートは少し不便な場所にあったが、近くには市場やショッピングセンター、スーパーもある。下見のときにすべて確認していたからこそ、この部屋を選んだのだ。
5月、牡丹の花が咲く季節だった。
東京の街は牡丹であふれている。色とりどりに咲き誇り、どこまでも華やかだ。本当に美しい街だと思った。
牡丹の花言葉は、変わらぬ誠実さ。一人の人を想い続ける愛。
高橋美咲は道端の花を見つめ、ぼんやりと考え込んだ。
少し前、九条悠真に言いくるめられて結婚したとき、彼は「東京の牡丹は本当にきれいだ。今度婚約するときは東京の牡丹園で式を挙げて、美咲を一番きれいな花嫁にする」と言ってくれた。
その言葉に心から東京に憧れるようになった。まさか、あの一途な想いが、裏切りの結末に変わるなんて思いもしなかった。
今、隣にいるのは九条悠真ではなく、一度しか会ったことのない見知らぬ男。
高橋美咲は心の中でため息をついた。本当に人生は分からないものだ。
二人でスーパーに行き、大量に買い物をした。高橋美咲はスリッパやタオル、コップなど、生活必需品をたくさん買い込んだ。
すべてペアで揃え、色違いの同じデザイン。まるで新婚夫婦の部屋のようだった。
その間ずっと九条蓮は無言で彼女のそばにいて、荷物を持っていた。買い物がほぼ終わる頃になって、高橋美咲は九条蓮がすでにたくさんの荷物を抱えていることに気づいた。
でも、この男はさっき一度も文句を言わなかった。
そんな男は、あまりにも魅力的だ。好きになってしまうのも無理はない。
高橋美咲も、これ以上彼に無理をさせたくなくて、「今日はもう帰ろう。足りないものがあったら、また明日買いに来ればいいし」と言った。
二人は市場を出て、アパートまで歩いて帰った。
九条蓮は両手いっぱいに荷物を持っていて、高橋美咲の手は空っぽだった。
そのとき、すれ違った若いカップルが小声で「見て、あの彼氏、彼女に何も持たせてない。優しいなあ。あなたなんて、私のバッグすら持ってくれないのに……」と話しているのが聞こえた。
高橋美咲は九条蓮を見て、少し当たり前のように思っていた自分に気づいた。
九条悠真と付き合っていた頃は、さっきのカップルみたいに、彼は荷物一つ持ってくれなかった。
少し申し訳なくなって、彼の荷物を持とうと手を伸ばした。「私も持つよ」
だが、九条蓮は絶対に高橋美咲に荷物を持たせる気はなかった。彼は手を少し上げて、触れさせないようにした。「大丈夫」
それを見て、高橋美咲はさらに手を伸ばした。
思いがけず、バランスを崩してそのまま彼に倒れ込んでしまった。
顔が彼の胸にぶつかり、鼻がつぶれそうになった。あまりの痛さに、思わず涙がにじむ。
荷物を取ろうとしただけなのに、こんな恥ずかしいことになるなんて。どうしても九条蓮の前では失敗ばかりだ。
もしかして、この人の前だと自分は呪われてるんじゃ……?
「ごめん、わざとじゃないの」
九条蓮の深い瞳に、ほんの一瞬だけ軽蔑の色が浮かんだ。彼にとっては、高橋美咲がわざとやったようにしか見えなかった。彼女は本当に、隙あらば誘惑してくる。
なんて子供じみた手だ。
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