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裏切った婚約者の叔父と、間違って結婚しました

Ch. 157 - 狙われている気がする

Chapter 157

狙われている気がする

高橋美咲は巨大な壁の前に立ち、真剣な面持ちで筆を動かしていた。

彼女はエプロンを身につけ、髪をざっくりと後ろでまとめている。エプロンには色とりどりの絵の具がついていて、全身が汚れているように見えた。

目の前の壁画はほとんど完成しており、あと少しだけ塗り残しがあるだけだった。

美咲は最後の仕上げをしていて、あと2日もあれば終わるだろうと考えていた。

そう思った瞬間、美咲の心はふと遠くへ飛んでいった。

こみ上げてきたのは、壁画が終わることへの未練ではなく、東京を離れ、九条蓮とも離れることへの寂しさだった。

まさかまたあの人のことを考えるとは思わなかった。昨夜耳にしたことが再び脳裏をよぎり、美咲は眉をひそめて必死に感情を押し殺した。

最上階の社長室。

九条蓮はレザーソファに腰掛け、きちんと整理された書類を手にして、険しい表情で眉間に深いしわを寄せていた。

「九条社長、特に問題がなければ高橋さんの壁画はあと2日ほどで完成する見込みです。」

真壁直人がそう報告し、九条蓮の様子をうかがうように視線を上げた。

しかし九条蓮は何も言わず、さらに眉をひそめるばかり。真壁は、これは喜ぶべき報告ではないのだと察した。少なくとも九条蓮は満足していない。

しばらくして、九条蓮は手元の書類を置き、真壁直人を見上げて言った。「そんなに簡単に壁画が完成するのか?もっと完璧な仕上がりになるよう、しっかり見ておいてくれ。」

真壁直人の表情が一瞬固まった。

すぐに顔色が曇り、内心ひどく理不尽さを感じていた。なぜ自分が悪役をやらされるのか、と。

その頃、下の階で高橋美咲は作業に没頭していたが、突然背後から声がした。「高橋さん。」

振り返って見ると、「真壁さん、進捗の確認ですか?もうすぐ完成しますので、できるだけ早く仕上げますね。」と答えた。

真壁直人は内心焦りまくっていた。

早く仕上げる?今、九条蓮が望んでいるのはむしろ進捗を遅らせることなのに。

そう思いながらも、真壁は表情に出さず、手を後ろで組んで「うん、高橋さん、そのまま続けてください。ちょっと様子を見に来ただけなので、気にしないで。」と伝えた。

美咲は特に気にせず、再び作業に戻った。

一度作業に没頭すると、すぐに真壁直人のことも忘れてしまった。だが、少し色を塗り足したところで、また背後から真壁の声が飛んできた。「高橋さん、その色は違います!」

「え?」美咲は筆を止めた。

下絵を取り出して確認し、「間違ってませんよ。下絵通りです。」と返した。

「あ…言い間違えました。九条社長が紫色を好まないので、別の色に変えた方がいいかと。青にでも…」

「わかりました。」

美咲は納得いかないまま、絵の具を混ぜ直して塗り直した。

だがその後も、真壁直人は色が違うだの、形が違うだのと、何かと指摘してきた。

どれだけ美咲が鈍感でも、さすがにこれはおかしいと気づいた。真壁直人がわざと難癖をつけているように感じたのだ。

最後にまた指摘されたとき、美咲は筆を置いた。

真壁直人を見て、「真壁さん、具体的にどこが悪いのか、全部まとめて言ってもらえませんか?何度も描き直すのは大変です。」と尋ねた。

真壁直人は苦笑いし、気まずそうな表情を浮かべた。

自分が問題だと思っているわけではない。問題があると思っているのは、明らかに九条蓮なのだ。

「うーん、今のところ特に問題はないと思います。もう遅いですし、続きはまた明日にしましょう。」

そう言って、真壁直人はその場を去った。

去っていく背中を見送りながら、美咲は腑に落ちない気持ちだった。まるで狙い撃ちされているような感覚だ。

明日また話す?

もし明日も真壁直人があれこれ難癖をつけてきたら、いつまで経っても壁画が完成しないのでは?