Chapter 156
一度だけ、許してくれる?
そんな彼の態度を見て、桜井奈緒は皮肉を感じていた。
なぜなら、九条悠真の変化は自分が高橋家の娘という立場によるものだと分かっていたからだ。その肩書きがなければ、九条悠真は自分に目もくれなかっただろう。
今はまだ真実が明るみに出ていない以上、この状況を最大限に利用して、自分のためにしっかりと計画を立て、できる限りの利益を勝ち取るしかなかった。
カチャッ——会議室のドアが開いた。
真壁直人が、きっちりとしたスーツ姿で入ってきた。九条蓮の姿が見えず、九条悠真と桜井奈緒の顔には落胆の色が浮かんだ。
今日は九条蓮に会えると思っていたのだ。
だが、高橋美咲からのあの録音だけでも、高橋美咲が誰かに九条社長のふりをさせていたことは十分に証明できる。
「真壁さん、叔父はどこですか?高橋グループがわざわざ商談に来てるのに、まだ会う価値もないと?それはあまりにも失礼じゃないですか!」九条悠真は遠慮なく問いただした。
彼の顔には、まるで自分と高橋家が同じ側に立っているかのような誇らしげな表情が浮かび、口調も全く丁寧ではなかった。
これまで何度も九条蓮に翻弄されてきた九条悠真。
今や後ろ盾を得た彼は、当然この機会に鬱憤を晴らそうとしていた。
真壁直人の目が一瞬揺れ、丁寧な笑みを浮かべて答えた。「九条社長は大事なお客様の対応中です。本件は私が担当いたします。」
「高橋グループより大事なお客様なんているのかよ!」九条悠真は不満げにぼそりと呟いた。
真壁直人の笑顔がわずかに引きつり、心の中で思った——九条悠真は一体どっちの味方なんだ?自分の側を足引っ張ってどうする。
和田琉生も九条悠真の発言を聞いて、わずかに眉をひそめた。
九条蓮は本当に高橋グループを軽く見ているのではないかと感じた。もしお嬢様がいなければ、こんな態度では協力する必要もないだろう。
この件は正直に高橋正人に報告しようと心に決めた。
和田琉生はすぐに気持ちを切り替え、すでに作成済みの契約書を取り出した。「真壁さん、今回のご協力についてですが……」
高橋家は海外に個人所有の鉱山を持ち、自社ブランドのジュエリーも展開しているが、東京は高橋家にとって未開拓の市場だった。
しばらく前から高橋正人が東京に何度も足を運んでいたのは、この地での市場開拓を目指していたからだ。
今回、九条インターナショナルと提携することで、九条インターナショナルのネットワークと経験を活かし、全事業を一気に展開できる。
協議の末、ついに契約が締結された。
九条ホールディングス傘下の九条インターナショナルと高橋グループは、新たなジュエリーブランドを立ち上げることで合意し、桜井奈緒が九条インターナショナル側の責任者となった。
九条悠真も自ら補佐を申し出た。
こんな千載一遇のチャンス、うまくやれば九条会長に自分の実力を認めてもらい、将来の九条家の後継候補に選ばれるかもしれない。
桜井奈緒は再び九条インターナショナルに戻り、しかもこれほど重要なプロジェクトを任されることになり、心から嬉しかった。
和田琉生を見送った後、九条悠真は桜井奈緒の手を取り、深い愛情を込めて見つめながら、優しく言った。「奈緒、本当に君は僕の幸運の女神だ。これからは絶対に大切にするよ。」
桜井奈緒はそっと唇を噛み、ためらいがちに言った。「もし私が嘘をついていたって分かっても、一度だけ許してくれる?」
九条悠真は桜井奈緒を抱き寄せ、優しくささやいた。「何度君に嘘をつかれても、僕は許すよ。」
その約束を聞いて、桜井奈緒は少しだけ心が軽くなり、彼の胸に身を預けた。
もし自分が高橋家の娘ではないとバレる日が来ても、九条悠真が許してくれることを願っていた。
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