Chapter 154
九条家に入るなんて思うな(続き)
高橋美咲はその気遣いに思わず心が温かくなり、自分の情けなさを心の中で罵った。
慌てて他のことを考えて気を紛らわせようとした。
九条蓮の深い瞳が高橋美咲の顔に注がれる。彼女の様子がおかしいことに気づき、眉をひそめた。
高橋美咲は九条蓮に見つめられているのに気づき、気まずさを隠すように話題を変えた。「桜井奈緒の件、多分九条悠真が手を回したんだと思う。私たち、無駄に動いただけだったみたい。」
桜井奈緒は少し痛い目を見ただけで、すぐに事態は収束した。本来なら絶好の機会だったのに、何の波紋も起きなかったことに高橋美咲は少し残念に思っていた。
九条蓮は眉を上げ、何気なく尋ねた。「もっと罰を受けてほしかったのか?」
もし高橋美咲が望むなら、彼が手を貸すこともできた。
意外にも高橋美咲は首を振り、淡々と「いいえ。もう彼らと関わりたくないの」と言った。
九条悠真と関わりたくないのか。
九条蓮の目がわずかに陰り、考え込むような表情を浮かべた。],
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今や高橋美咲の九条悠真に対する態度は、完全な無関心へと変わっていた。もしかすると、もう九条悠真に対して何の感情も残っていないのかもしれない。
では、彼女の心にある“白月光”はどうなったのだろうか。
その男は、九条悠真を超えてしまったのか。
たとえ相沢翔が権力によって追い払われ、高橋美咲を諦めたとしても、高橋美咲の心の中から彼が消えたとは限らない。
九条蓮は「うん。もう別れたんだから、これ以上関わるべきじゃない」と言った。
できれば彼女とその“白月光”とも、この先一生関わりがないままでいてほしい。
高橋美咲は九条蓮が何を考えているのか分からなかった。何かをほのめかされている気がして、もし自分と九条蓮が別れたら、二人の間にもう何の縁もなくなるのだと想像した瞬間、顔色が少し青ざめた。
「どうした?」九条蓮は彼女の表情の悪さに気づいた。
「い、いや、舌を噛んじゃって……」高橋美咲は慌ててごまかした。
二人はそれぞれ思いを巡らせながら食事をした。
食事を終えた後、九条蓮はソファに座っていた。高橋美咲は食器を洗い終えると、やはり彼のもとへ向かった。
高橋美咲は九条蓮の隣に座り、何か言いたげにしながらも、なかなか口を開けなかった。
九条蓮は急かすことなく、静かに彼女が話し出すのを待った。
しばらく考えた末、高橋美咲は「九条蓮、九条インターナショナルで描いてる壁画、もうすぐ完成するの。もし他の依頼が入ったら、出張になるかもしれない」と口にした。
その言葉に、九条蓮の眉がきつく寄せられた。
高橋美咲の仕事柄、必要とされる場所へ行くのが当たり前だということを、彼はすっかり忘れていた。
彼女は長く同じ場所にとどまることはない。
高橋美咲が口にしたことで、まるで覚悟を決めたかのように、さらに続けた。「そもそも、私たちって契約で一緒にいるだけだし、別れても大したことじゃないよね」
実際、高橋美咲は少し逃げたい気持ちもあった。
九条蓮と同じ屋根の下で暮らし続けるのが怖かった。どんどん深みにはまってしまいそうで。
高橋美咲の言葉を聞き、九条蓮の眉はさらに深く寄った。
彼女は一刻も早く自分から離れたがっている。やはり心の中の“白月光”を忘れられないのか。仕事を口実に、あの男に会いに行こうとしているのか。
最近、九条蓮は高橋美咲の仕事の状況に注意を払っていなかった。
もし高橋美咲の言う通り、九条インターナショナルでの仕事が終わるなら、もうここにとどまる理由はない。
高橋美咲も、しつこく縋るような女にはなりたくなかったので、無理に明るく微笑みながら「この間は本当にありがとう。色々助けてもらったし」と言った。
「礼なんていらない。当然のことをしただけだ」
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