Chapter 139
九条社長の声は九条蓮とまったく同じ
床には柔らかなグレーのカーペットが敷かれていて、歩くとまるで綿の上を歩いているような感触だった。
高橋美咲はまっすぐ進み、やがて奥にたどり着くと、目の前に重厚な扉が現れ、そこには輝く金属プレートが掲げられていた。
「代表取締役室」と書かれている。
ここが九条社長のオフィスに違いない。
深呼吸してから、美咲はそっとオフィスのドアをノックした。
二度ノックすると、中から低く心地よい声が響いた。「どうぞ。」
高橋美咲は一瞬固まり、戸惑った。この声……
なぜか、この九条社長の声が九条蓮の声ととてもよく似ている気がした。声の高さも、話し方も、そっくりだ。
でもすぐにその考えを打ち消した。
たった二言だけで似ているなんて感じるなんて、さすがに考えすぎだ。
九条社長の許可を得て、美咲はドアを押し開けて中へ入った。
広いオフィスは全体的にモダンでミニマルなデザインで、グレー・黒・白を基調に落ち着いた雰囲気。中央には重厚な無垢材のデスク、その奥には本革のソファチェアが置かれている。
そのとき、椅子の背もたれが美咲の方を向いていた。九条社長がそこに座っているのは分かっている。
前回会った九条社長のことを思い出し、ぼんやりとした人影が美咲の脳裏に浮かぶ。ぼうっとしていると、声が聞こえた——
「もう済んだのか?」
高橋美咲はその場で固まり、眉をひそめた。やっぱりさっき聞き間違いじゃなかった!
あの声が九条蓮でなければ、誰の声だというの?!
絶対に聞き間違えるはずがない!
九条蓮が九条インターナショナルの社長室に座っているなんて?
椅子に座った九条蓮は、しばらく真壁直人の声が聞こえないので、椅子を回転させた。
振り返ると、目の前に高橋美咲が立っていた。
九条蓮は入ってきたのが真壁直人だと思っていたが、まさか高橋美咲だったとは思いもしなかった。
美咲は目を大きく見開き、呆然と彼を見つめている。その視線には驚きと動揺、そして信じられないという思いが溢れていた。
二人の視線が合った瞬間、空気が一気に静まり返った。
その頃、九条インターナショナルの正面玄関で記者対応を終えた真壁直人は、九条蓮の第二秘書・水城圭介がトイレの方からお腹を押さえて出てくるのを見かけた。
今日は二人だけがオフィスにいる。真壁はさっき記者対応で下に降りていたが、水城圭介は腹痛でトイレにこもっていたらしい。
真壁直人は心配そうに「水城さん、どうしたんですか?」と声をかけた。
「今日何食べたのか分かんないけど、もう二回もトイレ行ってる。下痢しすぎて足がガクガクだよ。あーもう、話してる場合じゃない、また行く……」
そう言いながら、水城圭介はお腹を押さえてトイレへ駆け込んだ。
真壁直人は同情しつつ首を振り、九条蓮のオフィスへ向かった。ドアの前に着くと、半開きの隙間から中の様子が見えた。
オフィスの中では、高橋美咲がドアに背を向けて立っている。
そして九条蓮が椅子に座っている。二人はまさに鉢合わせしていた!
まずい、九条社長の正体がバレたのでは?
そのとき、真壁直人は九条蓮がちらりとこちらを見たのに気づいた。社長の特別補佐として、表情や状況判断には長けている。
九条蓮の一瞥だけで、すぐに意図を察した。
真壁直人はすぐに踵を返し、トイレへ駆け込んだ。「水城さん、今すぐ出てこい!」
トイレの中で水城圭介は、ようやくスッキリしたところで真壁直人に驚かされ、思わず肛門が締まった。怒り気味に「個室いっぱいあるのに、なんで俺のとこ来るんだよ?わざとか?絶対出ないからな!」と叫ぶ。
一刻を争う大ピンチ。真壁直人は説明する暇もなく、個室のドアを蹴り飛ばした。
バンッ——
大きな音とともにドアが強引に開いた。
水城圭介は慌てて股間を隠し、恐怖の表情で「うわっ、変態かよ!」と叫んだ。
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