Chapter 135
演じられた高橋美咲
もし自分が何も持たない存在になったら、こんなものは一瞬で消えてしまうのだろう。
コンコン、と病室のドアがノックされ、桜井奈緒はすぐに表情を隠した。「どうぞ。」
てっきり九条悠真だと思っていたが、入ってきたのは月島瑠奈と望月麗奈だった。二人は花束とフルーツバスケットを手にしている。
「奈緒。」
「お見舞いに来たよ。」
九条悠真ではなく二人だったので、桜井奈緒の表情はすぐに和らいだ。「どうしたの、二人とも?」
二人は遠慮なく切り出した。「奈緒、昨日ご飯食べに行ったんだけど、誰に会ったと思う?」
「そうそう!高橋美咲を見かけたの。しかも男の人と一緒で、すごく親しそうだったよ……」
二人は口々に話し始めた。
桜井奈緒の顔には興味なさそうな色が一瞬浮かんだ。「それがどうかしたの?」
「奈緒、聞いたんだけど、高橋美咲がこの前の婚約披露宴に連れてきた男の人、あれ本物の九条社長じゃなくて、誰かの運転手だったんだって!」
「えっ!」桜井奈緒は驚いて身を乗り出した。
彼女は二人を鋭い目で見つめ、「本当なの?」と詰め寄る。
「絶対本当!」
「録音もあるよ。信じられないなら聞いてみて。」
そう言って、二人はスマホを取り出し、録音を再生した。
高橋美咲が自分で九条蓮の身代わりを頼んだと認める声を聞いた瞬間、桜井奈緒の目に冷たい光が宿った。
全部、嘘だったのか。
高橋美咲はそんなことまでして、皆を騙したのだ。九条悠真も、九条沙耶香も、みんな高橋美咲に弄ばれていた!
あの日の婚約披露宴で味わった屈辱を思い出し、桜井奈緒は悔しさで歯を食いしばった。
あの時は、高橋美咲が本当に九条蓮のような大物を手に入れたのだと思い込んでいた。
まさか、全部偽物だったなんて!
もし彼女たちの手にある録音を聞いていなければ、桜井奈緒は今でも現実だとは信じられなかっただろう。あの男はあまりにも巧妙に演じていたのだ。
まさに天が味方してくれた!
高橋美咲にはまったく後ろ盾がいないと分かった今、ようやく思い切って高橋美咲に手を打つことができる!
月島瑠奈が言った。「奈緒、まさか高橋美咲がこんなことをするなんて思わなかったわ。今じゃみんな、彼女が九条悠真の女だと思ってるんじゃない?」
「そうよね。これからは彼女の立場も全然違ってくるはず。もしかしたら上流社会に入って、みんなが媚びを売る相手になるかも」と望月麗奈も横から口を挟んだ。
それを聞いて、桜井奈緒はあの日の婚約披露宴で、あの裕福な令嬢たちや社交界の女性たちがこぞって高橋美咲に媚びていた光景を思い出した。
上流社会入り?
そんなチャンス、絶対に高橋美咲には与えない!
一瞬で、桜井奈緒は高橋美咲を潰す方法を思いついた。
記者たちに高橋美咲が偽物を仕立てたことを暴露させるつもりだ。本物の九条社長が自ら出てきて彼女の嘘を暴けば、高橋美咲は世間の笑い者になるだろう。
桜井奈緒は「その録音、私にちょうだい」と言った。
二人はすぐに録音データを桜井奈緒に送った。
すべてが終わった後、二人はおずおずと尋ねた。「奈緒アシスタント、お願いがあるんだけど、九条マネージャーに頼んで、私たちを九条インターナショナルに戻してもらえないかな?」
二人は桜井奈緒の婚約披露宴で男を探そうとして、ドレス代まで多額の借金を背負ってしまった。今もどうしたらいいか分からないままだ。
桜井奈緒自身も九条インターナショナルに戻れないのに、どうやって二人を助けられるだろうか。
だが、二人が協力してくれたこともあり、完全に突き放すことはしなかった。ただ軽く「一応聞いてみるわ」とだけ答えた。
「ありがとう、奈緒。」月島瑠奈と望月麗奈は満面の笑みで何度もお礼を言った。
婚約披露宴でチャンスがなかったとしても、桜井奈緒と九条悠真が結婚すれば、またチャンスは巡ってくる!
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