Chapter 13
仮の同居生活(続き)
借りたアパートは高台にあり、階段を何段も上らなければならない。タクシーも上まで入れず、交差点で降りてスーツケースを引いて上がるしかなかった。
高橋美咲はスーツケースを持ち上げて階段を上がろうとしたが、以前よりずっと重く感じ、数段登っただけで息が上がり、額にはうっすら汗がにじんだ。
少し離れた信号のところを、九条蓮のロールスロイスがちょうど通りかかった。
真壁直人が「九条様、高橋さんです」と声をかけた。
九条蓮は眉をひそめ、高橋美咲の華奢な後ろ姿が重そうにスーツケースを運ぶ様子をじっと見つめた。彼女がどこへ向かっているのかも分からない。
ふと、少し気の毒に思えてきた。
今日、高橋美咲が甥の元恋人だと知り、彼女の番号を着信拒否にして縁を切るつもりだった。
まさか帰宅途中にここで高橋美咲を見かけるとは思わなかった。
よく考えれば、九条悠真が彼女を傷つけたのだ。高橋美咲は騙された哀れな女性で、八つ当たりする理由もない。
たとえ事故で結婚したとはいえ、もし離婚するなら、せめて円満に別れるべきだろう。
高橋美咲が必死でスーツケースを持ち上げていると、突然、力強い手が現れてスーツケースを奪い取った。
顔を上げると、九条蓮のやや冷たい整った顔があった。
「九条蓮さん?」高橋美咲は驚いて言った。「どうしてここに?」
「どこへ行くんだ?」と九条蓮が尋ねる。
高橋美咲は坂の上のアパートを指さし、「あそこです。今日、部屋を借りました」と答えた。
九条蓮はスーツケースを持ち上げた。
そのとき、カチッという音とともにスーツケースのロックが外れ、中身が一気に飛び出した。衣類や小物が階段に散乱する。
カランカランと音を立てて、金色の真鍮の鈴のようなものが階段を転がり落ちていった。
高橋美咲は、地面に広がった荷物を見て呆然とした。
透けるセクシーなスリップ、レースのTバック、指三本分ほどの細いストラップのブラ、網タイツ、そして口に出せないような小道具まで、自分の下着とごちゃ混ぜになっている…。
何これ?
普通の下着以外は自分のものではない。どうしてこんなものがスーツケースに?
さっきの九条凛の妙に嬉しそうな笑顔を思い出し、すべての謎が解けた気がした。
九条凛、絶対に許さない!
九条蓮の視線が地面に落ち、目が暗くなる。
こんなに恥ずかしいものを用意して…自分を誘惑して父親にでもさせたいのか?
冷たい光がその目に浮かび、整った顔がさらに険しくなった。
周囲の空気が凍りついていく。高橋美咲の顔は一瞬で真っ赤になり、首筋から耳の先まで火がついたようだった。
通りすがりの人たちが地面を見て意味ありげに微笑み、ひそひそと「最近の若い子は大胆ね」と囁き合っている。
高橋美咲は慌てて前に出て、荷物をかき集めてスーツケースに無理やり詰め込んだ。
しばらく拾い集めてようやく全部詰め終わったとき、九条蓮が首輪を差し出し、冷たく「落とし物」と言った。
「……」高橋美咲は恥ずかしさで死にそうだった。
九条蓮に新婚生活のために用意したと思われたらどうしよう。
顔を覆って泣き出したい気分だった。全部九条凛が勝手に入れたのに、ひどく理不尽だ。
しゃがみ込んで荷物を詰めながら、「ち、違うんです、これは…聞いてください…」と必死に弁解しようとした。
「行くぞ」と九条蓮はすでにスーツケースを持って歩き出した。
「……」もう、今回は諦めるしかない。
九条蓮の大きな背中を見つめながら、高橋美咲は今にも泣きそうだった。スーツケースがまた開かないよう、必死で目を離さずについていく。
怒りと恥ずかしさでいっぱいになりながら、スマートフォンを取り出して九条凛にメッセージを送り、問い詰めた。
「九条凛、私のスーツケースに一体何を入れたの!!」
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