Chapter 119
もうひとつの白月光を隠して
九条凛は手を叩いて笑顔で言った。「そうそう、あんなクズに未練なんて持つ必要ないよ!世界は広いんだから、一本の木に縛られることないでしょ?」
神谷海斗は九条凛の言葉にとても満足していた。そう考えられるのはいいことだ。
彼の口元には静かに笑みが浮かんだ。九条凛もあのヒモみたいな旦那と別れたんだし、そろそろ他の木に目を向けてもいいはずだ。たとえば、すぐ隣にいるイケメンで頼りがいのある大きな木とか。
高橋美咲は焼き物に集中していて、あまり深く考えずに言った。「うん、森は広いし、もっといい木が待ってるよ。たとえ他に好きな人ができても、元カレに戻るなんて絶対ないし。」
他に好きな人……
その言葉には、何か含みがあるようだった。
九条凛はすぐにピンときて、身を乗り出して探りを入れた。「美咲、もしかしてもう好きな人いるの?誰?」
高橋美咲は口を開きかけて、すぐにハッとした。
危うく口を滑らせるところだった。しかも当の本人がすぐ隣に座っている。もし本当に言ってしまったら、きっと笑いものにされるだろう。
それに、九条蓮にはすでに林健人がいる。もし言ったら、彼に迷惑をかけるだけだ。幸い、頭の回転は速かった。
高橋美咲は気まずそうに笑った。「まだ……いないよ。」
その言葉を聞いて、九条蓮の表情が少し曇った。
やっぱり高橋美咲は自分を九条悠真への当てつけに使っているだけで、少しも自分に気持ちはないのだ。
高橋美咲がしどろもどろになったのを見て、九条凛も九条蓮と同じ結論に至った。高橋美咲の後ろめたそうな態度は、絶対に心の中に好きな人がいる証拠だと思った。
もしかして、それって兄なのかも!
九条凛はにやりと笑い、さらに追及した。「ほら美咲、ここには他人なんていないんだから、隠さなくていいでしょ。長い付き合いなんだから、あんたがお尻突き出しただけで、どんなウンチするかくらい分かるよ?」
高橋美咲は九条凛に見抜かれているとは思わず、気まずそうに小さく笑った。
「ほら、白状しなよ!心の中の男って誰?」
九条凛にそう言われ、高橋美咲は横目で隣の九条蓮をちらりと見て、思わず口元が緩んだ。「彼……すごくいい人だよ。すごくかっこよくて、気遣いもできるし。九条悠真なんかより千倍も素敵……」
高橋美咲のそんな言葉に、九条凛は思わず口元を手で覆って喜んだ。
まさか兄のイメージが高橋美咲の中でこんなに高いとは思わなかった。やっぱり兄はちゃんと自分をアピールできているんだなと、九条凛は嬉しくなった。
だが、九条凛が喜ぶのも束の間、高橋美咲の口調が変わり、そっと言った。「でも、彼にはもう彼女がいるんだ。私たちは縁がなかったの。」
そう言って、無理やり笑顔を作りながらも、表情は沈んでいた。
もう自分の中で気持ちに区切りをつけたはずなのに、改めて考えると、心の奥底からどうしようもない未練がまた湧き上がってきた。
でもいい。あと数日だけは、九条蓮と一緒に楽しく過ごして、それを最後の別れにしよう。
九条凛はあ然とした。ちょっと待って……聞けば聞くほどおかしいぞ?
さっきまで高橋美咲が言っていたのは兄のことじゃなかったの?
でも兄には彼女なんていない!
もしかして、誰にも知られずに高橋美咲の心には別の“白月光”が隠れていたのか?
うそでしょ!
完全に見落としてた。全然気づかなかった。
九条凛の表情はその場で変わった。まだ追及したかったが、高橋美咲はこれ以上聞かれるのを恐れて、焼きたてのバーベキューを九条凛に差し出し、食べ物で口を塞いだ。
食事が終わった後、九条凛は口実を作って九条蓮を呼び出した。
興奮気味に言った。「兄さん、大変だよ!九条悠真を排除したと思ったら、どこからか別の白月光が現れたみたい!」
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